我が国の都市圏では鉄道の利用が盛んであり、鉄道ネットワークを利用して多くの人が行き来することから、直線距離だけでなく、鉄道による移動コストも2地点間の地価の類似性に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
そこで、そのような影響を考慮した地価内挿を、従来のkrigingの理論に整合的に行うための手法の提案を行い、従来の手法との内挿精度等の比較から提案手法の有効性と仮説の検証を試みた。
前述のように、Krigingでは共分散を距離の関数(共分散関数)とすることにより空間従属性を考慮した内挿を行う。通常は距離として直線距離が用いられるが、今回は直線距離だけでなく鉄道による移動コストの影響を考慮するために、ある点から他の任意地点の間の共分散は直線距離(下図中青矢印)と鉄道ネットワーク距離(鉄道を利用した場合の2点間の移動距離:下図中赤矢印)の二つの距離の増加に伴い逓減していくと仮定し、それら2つの距離によって共分散関数を定義する。
※図中の橙色は、各距離の増加によるA点からの共分散の逓減過程を表す。
直線距離のみを考慮する従来の手法と、直線距離と鉄道距離の両方を考慮する提案手法それぞれを用いて東京都中央線沿線の公示地価データを用いて地価内挿を行い両結果を比較した(下図)。両手法の推定精度の比較を行ったところ、提案手法の方が従来の手法に比べ、1地点あたりの平均予測誤差が約2.5万円減少した。
地理的・空間的に連続して分布するデータ(空間データ)を扱う分析においては、結果の表示や分析自体のために、何らかの内挿を必要とする場合が少なくない。空間データを合理的に内挿する手法の一つとして、鉱物学や地質学など自然科学と関わりの深い空間統計学の分野において、Krigingと呼ばれる手法が確立されつつある。Krigingは、ある条件下で最良線形不偏推定量を与えるという意味で統計学的に優れた手法である。Krigingを実際に適用する際には、任意の2地点における値の共分散は、その2地点間の距離 のみによって決まるという定常性を仮定する。
一方、社会経済分析と関わりの深い空間計量経済学と呼ばれる分野においては、空間データを用いた回帰分析において誤差項に何らかの系列相関が生じる場合に、時系列モデルのアナロジーから、誤差項における未知の空間的相関に対してパラメータを用いたモデル化を行って対処する。
本研究では、いわば空間統計学と空間計量経済学の融合の一助として、後者の代表的なモデルの一つである移動平均モデルに基づいてKrigingによる空間内挿を行う方法を提案している。さらに、時空間内挿へも拡張を行っている。
これらの成果の一部は以下の論文で公表している。